確かに、条件の悪い土地にマンションを建てたのも失敗の理由の一つなのですが、更に悪いことに、建てたマンションの仕様にも問題がありました。
このオーナーは、ゼネコンに言われるまま、周辺は古い木賃アパートが立ち並ぶ地域に、場違いな高級マンションを建ててしまっていたのです。
ゼネコン担当者に、
「10年ほどで陳腐化するようなマンションでは、ダメです。そんなマンションを建てたのでは○○(建てた会社の名前)の名折れです。
ローンは30年組むのですから、最低30年間はあとから建った他のマンションとの競合に負けないものを建てましょう。」
そう口説かれて、
オートロック・総タイル張り・不在時の宅配物受け取りロッカー・広い玄関ホール・広いバルコニー・BS・光ファイバー・共用部分には有線放送でバックミュージック・等々
それはそれは、立派なマンションを建てていました。
建物だけ見れば担当者が言うとおり、成功間違い無しの建物です。
マンション経営をするならば、立派なマンションを建てるにこしたことはありません。
家賃も高く設定出来ますし、古くなっても競争力があります。更には、入居者も世間的に地位の高い人間で、家主としての満足感も満たしてくれます。
しかしそれは、高級マンションの似合う地域に、建設するならばの話しです。
高額の家賃を払う人は、その家賃にふさわしい、それなりの地域に住みたがります。
例えて言えばこの家主さん、学生や労働者相手の定食屋さんが並ぶ地域に、突然高級レストランを開店したようなものだったのです。
高級レストランをやりたいなら、それに適した場所を選ぶべきです。
諸般の事情からそれが出来ないのであれば、高級地の高級レストランと同じシェフ・同じ食材・同じ手間をかけても、料金は同じように設定出来ません。
同じように、高級賃貸マンションを建てるなら、場所選定はマンション経営を成功させる為の、重要な要件の一つなのです。
このマンション、今では当初より2割以上も、家賃を下げています。
仕方ないでしょうねえ、計画そのものが、机上の空論だったのですから。
それにしてもなぜこの有名ゼネコンは、ローコストマンションしか成功しない地域に、こんな高級マンションを建てさせたのでしょうか?
私なりに推察してみると、理由は4つあります。
1.当初計画は地元建設会社が提案しており、あとから割り込んできたゼネコンとしては、差別化の意味で先行建設会社とは違う提案をする必要があったから。
2.ゼネコンは、そもそも建物を出来るだけ豪華に建てさせ、儲けるのが仕事です。
家賃が高く取れる地域ではないからと、ローコストマンションを建てさせたのでは儲からないから。
3.ローコストマンションで競合になった場合、大手ゼネコンは地元建設会社に、価格競争では絶対かなわないから。
4.もともと大手ゼネコンには、良いように言えば職人気質というか、自分達の作品と呼べる建築物を作りたがる性質があるから。
ようは最初からどんな場所に建てようと、高級マンション以外は、提案する気が無かったのだと思います。
地域特性なんて、全然考慮していません。
そんなゼネコンのくどき文句が、
「20年・30年後にも陳腐化しない、資産として残るマンションを建てましょう。」
です。
家主さんにとって、虚栄心・満足感を満たしてくれる心地よい言葉ですが・・・。
賃貸マンション建設をお考えの方、自問してみて下さい。
その場所は、20年・30年後にも競合出来る高級マンションを建てるのに、ふさわしい立地ですか?