裁判で揉めているケースは、これが多いです。
例えば礼金2ヶ月、敷金3ヶ月、計5ヶ月入居時に必要だった場合、礼金2ヶ月は返ってこないのは仕方ないとしても、敷金分まで「原状回復費にかかる。」とか何とか言って戻してくれない。「訴えてやる!!」、という訳ですね。
結論から先に言うと、裁判になるとほとんどの費用は、家主持ちとの判断が下されます。
従って、入居者が壁に穴を開けたなんていう場合以外は、敷金は全額戻ってきます。
(但し例外があります、どんな場合が例外かは、最後のほうに書いてます。)
それでこの敷金問題なんですが、実際の賃貸の現場では、ほとんどの業者が敷金は全額戻しています。
割合で言えば、私の周りの業者は8割くらいは、当たり前ですがきれいに戻しています。ただ、家主が入居者を直募集している場合や、不動産業者介在でも大手業者ほど、なんだかんだと理由をつけて戻さない傾向があるので、市場のシェアから言えば本来戻すべき金を、このまま取ってしまおうみたいなケースが、半分くらいになるのでしょうか?
家主が敷金を戻さないのは、自分の収入になるから分かるとして、なぜ大手不動産業者は敷金を戻さないのでしょうか?
理由は簡単ですね。
これらの業者は家主から管理委託されていて、その管理形態も敷金は家主に渡さず、管理会社側の裁量で次の入居者募集のための、リフォーム費用として使えるような契約を結んでいることが多いからです。
敷金は業者側で預かり、退去時の補修で余っても、逆に足りなくても、家主と清算しない、家主に対しては月の家賃だけを送金する。こんな管理契約です。
この方式だと、業者側はリフォームを安くあげれば差額分も収入に出来ます。
逆に家主とすれば、リフォーム費用を敷金の範囲内で納めようと、頭を悩ませる必要もありません。(本業の不動産業者が手配すれば、余るリフォーム費用でも、素人の家主さんだと逆に足が出てしまうことも珍しくありません。)
互いにメリットがあるんですが、この形式で管理委託している場合、退去者に敷金を戻せば収入減どころか、戻した分を家主に請求できないので、リフォーム分が業者の赤字になります。
死活問題ですね。
なんだかんだ、理屈をつけて戻そうとしないのも分かります。
あと、入居者を直で募集している家主が敷金を返さないのは、家主の強欲以外に(笑)、原状回復に対する認識が昔のままの人が多いのも原因の一つだと思います。
どんな賃貸借契約書にも、「借主は退去時に、借りた部屋を原状に戻して退去する。」こう条項が入っています。
この原状回復に対する認識が家主・入居者で違うんですね。
それで、原状回復とは、
借主が借りた当時の状態に、部屋を戻すことではなくて、借主の責に帰すべき事由で損耗したものを、元の状態に戻すこと。
なんですねえ。
「新築の部屋を貸したのだから、新築にして戻せ。」でもなければ、
「タバコの不注意で、フローリングが焦げてるけど、わざとやったわけでもないので敷金は満額返してね。」でも無いということです。
家主は自然損耗のクロス汚れは請求できませんし、入居者は自分の故意や過失で傷つけたり壊したものまで家主持ちには出来ません。
平成16年2月公表の改訂された「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると具体的には、こうなります。
貸主負担
1. 日焼け、経年経過による畳・フスマ・クロスの変色
2. テレビ・冷蔵庫によるクロスの電気やけ
3. エアコン設置によるビス穴・跡
4. 家具の設置による畳・カーペットのへこみ
5.鍵交換
6.設備機器の耐用年限到来による、故障・使用不能
逆に借主負担となるもの
1. 台所の油汚れ
2. 風呂・洗面所の水あか・かび
3. 張替えが必要な、クリーニングをしても落ちないタバコ・線香のヤニ
4. 結露放置で拡大したカビ・しみ
5. 飲み物をこぼしたことによるカビ・しみ
6. 引越し時につけた傷
7.ペットによる柱等の傷
これによると、普通どおり使っていて自然に古くなったり、汚れたものについては家主負担、入居者の故意過失で付いた傷・掃除もろくすっぽしなかったために生じた油汚れやカビについては借主負担となっています。
従って退去時には、ほとんど敷金が戻ってくる事になると思うのですが、実は最近、私の地元、福岡地裁で自然損耗分を借主負担とする判決が出ています。
しかも当初は敷金返還を求めた退去者が、簡裁で勝訴している事例です。
敷金返還判決を不服とした家主が控訴し、クロス・畳・フスマ張替え費用・清掃費の借主負担が逆に認められています。
入居者有利の判決が出ている中で、簡裁で借主が勝ちながら地裁で負けるという、時代の流れに逆らった判決が出た理由は、
1. 賃貸借契約前に仲介業者が、借主の費用負担を契約書を示しながら「敷金4ヶ月のうち補修費として3ヶ月はかかるだろうから、退去時には1ヶ月分戻ればいいほうではないか。」と説明し、これに異議を唱えることなく借主が契約していることで、自然損耗分を借主負担とする特約の成立が認められる事。
(福岡は、敷引き契約方式で契約するのが慣習の地域ですが、敷引き契約とせず、実費精算方式で契約していることが影響していると思います。
この裁判長の判断は、「もともと福岡の慣習である敷引き方式で契約していたら、敷金4ヶ月・敷引金3ヶ月なのだから、そして敷引きは裁判でも有効と認められているんだから、1ヶ月しか戻ってきていないでしょう。それを実費清算方式で契約しているから自然損耗分は家主負担といってもねえ??」っていうことなんじゃないでしょうか。)
2.次に借主は、消費者契約法10条による、自然損耗分を借主負担とする特約の無効を主張していますが、本契約が同法施行前に締結され、その後自動更新しているものの、この更新は「従前の契約の効力によってなされたに過ぎず、その際新たな契約は締結されていないのだから同法の適用は無い。」とされています。
(この部分は下の判例2にあげる判決と、真逆ですが福岡には、更新時の更新料授受の慣習がなく、更新時に契約書を新たに交わし直す事もしない事から、このような判決になったのではないでしょうか。更新料の授受があり、契約書を作り直す地域では、下の判決のような判断になると思います。)
前回も書きましたがこのように、実際の裁判になれば、地域の慣習・契約自由の原則を考慮した判決になります。
マスコミや、インターネットで盛んに言われているように、必ず借主が勝つようなものではありません。(いい加減な報道が多いから、ここの所は強調したいです。)
当たり前ですが、ようは地域や個々の契約に至った経緯、周辺同程度の賃貸住宅と比べた時の敷金額・家賃額など、事例ごとで下される判決は違うのです。
とはいえ、現在の敷金問題に関する流れとしては、自然損耗分を家主負担とする考え方です。
実際に契約では自然損耗分を借主負担とする契約書を交わしながら、裁判では家主負担だとの判断が示された判例を下にあげます。そのほかにも同様の判決が多数あります。
参考判例
1. 敷金47万円を50%償却し、更に残り50%から修理費実費を控除し、残金を入居者に返還するよう定めた契約書で、別表で退去時の修理基準を定めていたにもかかわらず、50%償却と掃除費等しか控除が認められず、約20万円の返還を命じた事例。
、
名古屋簡易裁判所 平成14年(ハ)第6602号 敷金返還請求
2. 消費者契約法施行前に締結された建物賃貸借契約が同法施行後に当事者の合意により更新された場合,更新後の賃貸借契約には消費者契約法の適用があるとされ、自然損耗及び通常の使用による損耗について賃借人に原状回復義務を負担させる特約は消費者契約法10条により無効である。とした事例。
h16.3.16 京都地方裁判所 平成15年(ワ)第162号等 敷金返還請求等
(ちなみにこの事例、借主が家主に敷金20万円の返還を求める訴えを起こし、更に借主はそもそも家主が敷金を返さないのは、管理業者の不動産業者が借主に、無効な原状回復特約をさせたことに原因があるからと、不動産業者に敷金20万円と自分の弁護士費用10万円、合計30万円の損害賠償を求める訴えも起こしています。
不動産業者の注意義務にも関することなので、不動産業者の方で、興味のある人は読んでみて下さい。)
3.借主の不相当な使用で焼け焦げた、換気扇を借主の責任であることを認めながら、減価償却している事例
東京簡易裁判所 平成13年(少コ)第1016号,平成13年(ハ)第14386号 敷金返還等請求事件,修繕費用請求
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