不動産業を始めて日の浅い知り合いの業者から、入居者の家賃滞納の件で相談がありました。
家主から「荷物出して、カギ替えると入居者に脅しをかけて、至急払ってもらってくれ。」とガンガン催促されているらしいです。
それで相談は、「催告しても入居者が家賃を払わない場合、本当に荷物出して、カギ替えて、法的に問題は無いか?」というものでした。
結論から言うと、
「問題大有り」ですね。そんな事すれば、入居者から訴えられると、家賃踏み倒された挙句、損害賠償請求で追い銭まで支払わないといけない事になります。
何年か前の話しになりますが、家賃滞納に業を煮やした業者が、「いついつまでに家賃払わないと、玄関ドアを外す。」と催告したうえで、本当にドアを外してしまい、損害賠償させられる判決が出て、新聞に載っておりました。
業界内でも、そんなことしちゃいけませんよ、とお達しがありました。
また、長期間家賃滞納した挙句、行方不明になった入居者の荷物を、勝手に処分した業者が、後日ふらっと現れた本人に損害賠償を求められた、あるいはガラのよくない人間から脅されたなんて例は、それこそ無数にあります。
はたまた競売では、安物の着物なんかをわざと部屋に置いてきて、落札者に捨てさせ「大島つむぎだった。」とか「母親の形見だった、どうしてくれる。」とか言って難くせつけるのが、いまや古典的手口ですらあります。
「天は自ら助けるものを助く。」という言葉がありますが、日本の法律は
「自ら助けるものは、これを罰す。」となっております。(涙)
お上にお伺いをたてず、下々のものが勝手なことをするな、こうなっているんですね。
又、これを許すと自力救済がエスカレートしがちになる事も、禁止されている理由です。
寝ている病人の布団はがして、布団売ちゃったり、米びつに手を突っ込んで、米持って帰ったりするから。(そんなの、いつの時代の話しじゃ)
これを
「自力救済の禁止」といいます。
これらの他に私が知っている「自力救済の禁止」で、痛い目にあった例としては、こんな話しがあります。
資金繰りに詰まった不動産屋に土地売買の手付金を使い込まれて、返してもらいに社長の自宅に日参したお年寄りが、「明日返す。」とか、「一週間後には必ず・・」とか言われて、のらりくらりといっこうに話しが好転しないので、社長の留守中に社長の奥さんから、指輪を取り上げたそうです。
そうしたところが、「住居不法侵入と、恐喝で訴えてやる。」と逆に、使い込み社長に脅されたというのです。
このお年寄り、人が良い人で、逆ねじ喰わされてひるんでいるうちに、そこの会社は倒産して、社長本人はどっかに雲隠れしてしまったそうなんです。
私なんかが聞けば、仮に本当に使い込み社長がこの老人を訴えても、警察がこの社長の訴えをまともに相手にするとは、到底考えられず、又、使い込み社長もそれを知ってのただの脅しだったと思うんですが、法律にうといお年寄りですから、そうは思わなかったらしいんです。
人が好すぎて「警察に訴えてやる。」と言われた時点で、自分が大変な犯罪者にでもなったような気がして、誰にも言えず泣き寝入りしたそうです。
話しは戻って、家賃滞納の件。
法律では、家賃滞納されたら、ちゃんと裁判で判決とって、その判決どおりにしなさい。という訳ですね。
改まっていう事でもない、至極、当たり前のことです。
ではなぜこの当たり前のことを、家主・不動産業者はしないのか?
なぜ、勝手にカギ替えたり、荷物出したりするんでしょう。
性格が悪いから?
いいえ違います。(笑)
家賃滞納の場合、法的に解決しようとすると、現実にはこうなるからです。
まず家主は、入居者が3ヶ月ほど滞納してからでないと、裁判そのものを起こせません。裁判所に、なんだかんだと裁判を受け付けてもらえないんですね。(意外とみなさん、知らなかったでしょ。)
又、契約書では「家賃を2ヶ月滞納したら本契約は解除され、借主は本物件を明け渡す。」みたいになっていますが、部屋を明け渡してもらうには3ヶ月滞納ではダメで、6ヶ月以上滞納しないと、これまた明け渡しの裁判も受け付けてもらえません。
1ヶ月、2ヶ月ぐらいの遅れで、いちいち訴え起こしちゃダメよ、それから、部屋を追い出したいなら、せめて半年滞納している人間じゃないと、追い出すなんてかわいそうじゃない、という訳ですね。
例外として3ヶ月待たなくて済む、少額訴訟というのがありますが、これは勝っても「支払え。」と自分に代わって裁判所に言ってもらうだけに過ぎません。
相手が無い袖は触れないと、支払わなかったらそれまでです。
というより、無い袖は触れないから支払わない人が大半なのですが・・・。
それで判決もらって、払ってもらえないとどうするか?
強制執行の許可もらって、家財を競売にかけるわけですが、賃貸の家賃滞納者の家財なんて、競売にかけるだけ損です。
そんなこんなで、みんな自力救済する訳ですが、やってる事からすると、正直な話し、滞納者に訴えられたら、どうなるでしょう?
裁判官によっては、負けるようなところまで、みんなやってるのかな?
払えないほうも必死なら、払ってもらうほうも必死。
なんか切ない話しではあります。